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東京地方裁判所 平成4年(ヲ)2333号 決定 1992年7月06日

当事者 別紙当事者目録記載のとおり

主文

買受人が代金を納入するまでの間、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)に対する相手方の占有を解いて、東京地方裁判所執行官にその保管を命ずる。

執行官は、その保管にかかることを公示するため適当な方法をとらなければならない。

理由

1  本件申立の趣旨及び理由は、別紙保全処分命令の申立書記載のとおりである。

2  よって、検討するに、記録によれば、次の事実が疎明される。

(1)  申立人は、本件土地につき、当庁に不動産競売の申立をし、平成四年三月一三日、競売開始決定がなされた。

(2)  本件土地は、競売開始決定当時更地であり、道路沿いに本件債務者兼所有者であるライベックス株式会社が設置したと思われる塀があったが、何者かが平成四年六月二二日から塀を取り壊し、パワーシャベルを搬入して整地作業を始めた。

そこで、申立人は、ライベックス株式会社を相手方として本件と同旨の保全処分の申立をした。当裁判所は、平成四年六月二六日これを認容し、同決定は同月三〇日執行された。同日には、本件土地上にはコンクリートが流し込まれ整地されていた。執行官は、同執行に当たり、本件土地の周囲に杭を設置し、ロープを張りめぐらして本件土地を囲い、同ロープ等に本件土地が執行官により保管中であることを公示した公示書を掲示して、ライベックス株式会社の占有を解き、本件土地を執行官の保管に移した。

(3)  ところが、平成四年七月二日、申立人の社員が現場を確認したところ、上記執行の際に現場を囲った杭・ロープが取り払われ、公示書が付近に投げ捨てられ、工事作業員がブロック等の作業材を搬入していた。

(4)  そこで、申立人の社員が作業員に問い質したところ、「本件工事は株式会社Aより受注したもので、今日工事を始めるに際し、ロープが張ってあったので、A社の社長に話したところ、責任は俺が持つから、杭・ロープを取り払って工事を続けろと言われたので、言われたとおりにした。」との返事であった。上記の現場の状況は執行官もこれを確認した。

(5)  申立人の社員が、A社の事務所があるという、赤坂三丁目○番地○号○○ビルを訪問したところ、室内には、パンチパーマ等の目付の鋭い男が数人おり、「駅前の工事は社長がやっている、社長に連絡をしてきてくれ。」とのことで、話しを聞くことはできなかった。

(6)  申立人の社員の調査によれば、A社の実質的オーナーは有限会社○○商事であり、○○商事は、強引な貸金の取立てなどを行う、暴力団と関係のある会社であるとのことであった。

3  上記認定事実によれば、相手方は、本件債務者兼所有者と共謀のうえあるいはこれの黙示の承諾を得たうえで、本件土地を整地し、これに工作物を設置する等して、執行妨害をしようと企図しているものと認められる。このような事実関係の下では、相手方は本件債務者兼所有者の占有補助者とみるべきであるから、相手方は売却のための保全処分の相手方となるものである。そして、執行妨害を目的とする相手方が、本件土地に工作物を設置する等するときは、買受希望者が買い受け意思を喪失する等から、本件土地の価値が著しく減少することは明らかである。また、相手方は、本件公示書を破棄して、本件工事を続行しているものであり、民事執行法五五条一項の保全処分を発しても実効性を有するとはいえないから、相手方に対しては、同法五五条二項の執行官保管の保全処分を直ちに発令するのが相当である。よって、当裁判所は、申立人に金五〇万円の担保をたてさせたうえ、民事執行法五五条(同法一八八条)に基づき、主文のとおり決定する。

(裁判官松丸伸一郎)

別紙当事者目録

申立人 日本信販株式会社

上記代表者代表取締役 糸井正男

上記代理人弁護士 柘賢二

同 山下俊六

同 柘万利子

相手方 株式会社A

上記代表者代表取締役 ○○○

別紙物件目録

(1)所在 東京都港区赤坂三丁目

地番 ○○○番

地目 宅地

地積 142.31平方メートル

(2)所在 東京都港区赤坂三丁目

地番 ○○○番

地目 宅地

地積 135.60平方メートル

別紙保全処分命令の申立書

申立ての趣旨

1 相手方は、別紙物件目録記載の不動産につき、建物の建築、工作物の設置等その他価格の減少をきたすような行為をしてはならない。

2 別紙物件目録記載の不動産に対する相手方の占有を解いて東京地方裁判所執行官にその保管を命ずる。

執行官は、その保管に係ることを公示するため適当な方法をとらなければならない。

との裁判を求める。

申立ての理由

一(禁止命令の理由)

1 申立人は、別紙物件目録記載の土地(以下本件土地という)につき、御庁に不動産競売を申立て(平成四年(ケ)第六五九号)、平成四年三月一三日競売開始決定がなされ係属中である。

2 本件土地は競売開始決定当時、更地であり道路沿いに債務者が設置した塀が存していたが、何者かが、平成四年六月二二日から塀を取毀し、パワーシャベルを搬入し整地作業を開始した。

このため、申立人は上記競売申立事件の債務者兼所有者であるライベックス株式会社に対する保全処分命令を得て、平成四年六月三〇日その執行をなした。

3 平成四年七月二日申立人において現場を確認したところ執行の際に現場を囲った杭・ロープは取り払われ、公示書も投げ捨てられ、工事作業員がブロック等の作業材を搬入していた。

4 このため、債権者において作業員に問い質したところ、「本件工事は(株)Aより受注したもので、今日工事を始めるに際し、ロープが張ってあったので、A社の社長に話したところ、責任は俺が持つから、杭・ロープを取り払って工事を続けろと云われたので、云われたとおりにした。」との返事であった。

二 以上のことがあったため、事後の処理について担当執行官と打ち合せたところ、前記の事は執行官も現認していたとのことで、A社に対する保全処分命令を得て、再度執行する必要があるとのことであった。

三 よって申立人は民事執行法第一八八条・第五五条に基づき申立の趣旨記載の裁判を求める。

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